TPP亡国論著者の中野剛志氏

 『TPP亡国論(集英社新書)』の著者である中野剛志京都大学大学院准教授のお話を聞く機会がありましたので、少し長くなりますがレポートさせて頂きます。

 まず米国が対日TPPについて本腰を入れ始めたのは、リーマンショックの影響があげられるとのことです。そもそも、2000年代の世界経済や東アジアの成長は、米国の住宅バブルによる過剰消費と欧州の好況に依存していて、米国の過剰消費に依存したグローバルな経済成長は、2008年の世界金融危機によって、持続不可能と判断した(貿易赤字を減らさなければならない)。

 日本を例にあげると、米国が日本製品の最終消費地(日本⇒米国への貿易、日本⇒アジア⇒米国及びEUへの加工貿易)になってくれたことが日本の輸出に寄与していたと考えられるとのことです(リーマンショック以降はアメリカの消費は当然ながら低下する)。

 リーマンショック以降、貿易赤字を減らさなければならない米国の戦略は、当然のことながら輸出拡大・ドル安戦略になります(※ドル安になると、米国製品が売れ、貿易収支が改善されると理解して下さい)。

 証拠としては。オバマ大統領の2010年の一般教書演説で今後5年間で輸出を倍増させると表明したことや、ガイトナー財務長官が「米国の貯蓄率向上に向けた必要な変化は、日本と欧州の黒字国の内需拡大や民需の持続的な伸び、更には一層柔軟な為替政策によって補われる必要がある」とのコメント(2010年6月5日)をあげていました。また、日本の横浜で開催されたAPEC(2010年11月13日)でも、オバマ大統領が「それが、今週アジアを訪れた理由の大きな部分だ。この地域で、輸出を増やすことは米国は大きな機会を見出している」「国外に10億ドル輸出するたびに、国内に5000人の職が維持される」「巨額の貿易黒字がある国は輸出への不健全な依存をやめ、内需拡大策を取るべきだ。いかなる国も、アメリカに輸出さえすれば経済的に繁栄出来ると考えるべきではない」と輸出戦略に踏み込んだ発言をしたことも改めて証拠になるのではないだろうかと思います。

 その他、クレイトン・ヤイターという米国通商代表部(日本の経済産業省のカウンターパートと理解して下さい)の米加(カナダ)自由貿易協定について「カナダ国民は、何に調印したかを分かっていない。彼らは、二十年以内にアメリカ経済に吸収されるだろう」との発言もあげ、TPPの意図について述べていました。

 TPP参加のメリット・デメリットですが、よく言われるように、TPPに参加しても、日本の輸出先はアメリカしかなく、アメリカの狙いも日本市場であること。シンガポール、ニュージーランド、チリ、ブルネイ、米国、豪州、ペルー、ベトナム、マレーシアの交渉参加国に日本を加えたGDPシェアで日米で90%以上のシェアになります。日本以外は、輸出依存度が高い小国ばかりとなっており、日本が輸出を伸長させるチャンスは少なく、逆に輸入の増加が容易に想像できます。

 個人的感想ですが、農業政策についてよくいわれる「高付加価値をつける農業」も耕作地の比率が日本1、米国100、豪州1,000といった状況であり、中山間地が多い日本の国土を斟酌すると、やはりあらかたの農家は大変なことにならざるを得ないと思います。

 為替については、米国はドル安を誘導することによって、日本企業の輸出競争力を低下させ、米国国内での現地生産比率を高めるように誘導してきます。また、既に日本の関税率は一部を除いておおむね低く、あまり関税撤廃のメリットもありません。また、日本の自動車産業を見ても日本の自動車メーカーの新車販売台数は6割以上が現地生産であり、ホンダに至っては8割以上となっているとのことです。

 この辺りまでは議論の前提条件となってくるような話であり、今後の話をしていきたいと思います。米国の主たる狙いは、関税よりは非関税障壁であり物品よりもサービスであるとのこと。オバマ大統領の輸出倍増戦略は、サービス輸出(米国の輸出の3割)は三倍増を掲げる。

 サービス輸出とは、銀行、保険、医療、電気通信、知財、メディア等々の制度(非関税障壁)の改廃である。事実、2011年米国貿易政策アジェンダでは、米国産牛肉の参入制限、銀行、保険(特に共済ついては名指し)、郵便における日本郵政と民間企業の平等な競争条件の欠如、米国自動車の参入制限(エコカー補助金)など、長期にわたる二国間の懸念の完全な解決を一層促すとしている。

 米韓FTAという前例をあげると、細かく記述することはしませんが、チョン・インテン元大統領秘書官が「主要な争点で韓国が得たものは何もない。米国の要求はほとんど飲んだ」とのコメントがあるように、あまりメリットは享受できずにデメリットが大きかったようです。

 また、TPPはすでに大枠合意されており、来年夏には議論終了とのこと。しかし、日本が交渉に参加できるのは、米国との事前協議・正式協議を経た半年後であり、日本がルール作りに参加できる余地はほとんど無いとのことです。

 そして、今後日本が行うTPPに係る具体的な交渉内容については、外交機密で情報が表に出てくることは無いであろうとのこと。公になるのは、条約を国会承認する直前あたりに山のような資料が出てくるようです。そして、米国絡みの条約を承認しなかった例はほとんどなかったと思うとのことです。

 お話で面白かったのが、グローバル化における憲法と民主政治の問題についてです。具体的には民主政治は交渉参加に反対しているのに交渉が進んでいくことについてです。交渉参加の表明賛成は、みんなの党のみ。民主党ですら、本件の検討をゆだねられたプロジェクト・チームは慎重に判断すべきという取りまとめです。

 TPP反対の請願には、衆参あわせて365人の国会議員が紹介人になり、10月下旬の共同通信社の調査で、賛成を表明した都道府県知事は6人だけ、1,100を越える地方議会が反対ないしは慎重の決議をしている。

 しかし、交渉参加表明に、民主的なコントロールは、形式上、不要であり、論拠としては憲法73条第2号「外交関係の処理」は、内閣の専権事項であり、TPP(条約)の国会承認は、予算同様、衆議院優越であること。その一方、米国は日本の交渉参加について議会の承認が必要であるという。日本の交渉参加の民主的コントロールは、米国では可能だが、日本は不可能であるということをあげておりました。

 つまり、内閣が、国民に影響が大きいグローバル化時代の経済外交について、議会の承認を必要とせず交渉参加の表明が可能となる点について、議会のチェック機能が果たせないことは時代にそぐわないのではないかという指摘です。なるほど。

 ここからは、私の所感ですが、おそらく今年は衆議院の総選挙があると思いますが、争点を消費税に絞って、TPPから関心をそらしてくると考えられます。あくまで、国民が関心を持たないと争点になりません。私自身にそれほど発信力は無いですがこの問題について引き続き取り上げていきたいと思います。

 関係ありませんが、個人的に中野先生は非常にユーモアのわかる人だと、お話を聞いて思いました(笑) お話ありがとうございました。

2012年01月21日
柳 毅一郎

 

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